講師の国際教養大学工藤准教授
講師の国際教養大学工藤准教授

山形県生協連では「協同組合講座」を協同組合に関する今日的な諸課題について学ぶ活動として位置づけ、同時に佐藤日出夫記念/山形県教育基金の企画として取り組みを進めています。

今年度の協同組合講座は、地域づくりやコミュニティのあり方について新たな視点で研究、プロジェクトに取り組んでいる国際教養大学の工藤准教授を講師に「人口減少社会における持続可能な地域づくり」をテーマに開催しました。

 

工藤先生は「地域のサステナビリティ(持続可能性)」について関心を持ち、町や村のサイズの地域が持続していくとはどういうことか、地元の秋田県とアフリカの農産地帯を往来しながら研究をされています。講演の前半は、「人口減少社会とはどういう社会なのか?」との問いをたて、様々な視点で問題提起をされました。山形県の協同組合は「いつまでも住み続けられるまちづくり」を目指していますが、人口減少による地域経済の縮小や各分野の担い手不足に悩んでいます。そのため人口減少・少子高齢化は「持続可能な社会」を困難にし、解決すべき課題と捉えています。工藤先生はその見方が一方的であり、再考するべき視点があることを示してくれました。

まず様々なデータを示して確かに「地域経済が縮小している」「子どもが減少している」「空き家や休耕地が増えている」課題に手を打たなければいけないのは間違いないが、同時に長期的に住み続けていくためにはどういうコミュニティをデザインしたらいいのか、考えていく必要があるとしました。そして人口減少した地域を「限界」と表現し、ゆえに地方は「活性化や再生する対象」として捉えられるようになってきているという今の地方・農山村地域に対する言説のあり方に疑問を呈されました。2014年に日本創成会議が出した人口減少によって896の自治体が「消滅可能性都市」とした試算は大きなインパクトを与えましたが、様々な現場を見た立場から、地方に対して人口が減っていることだけで「限界」「消滅」するという議論に対して「そうではない」ということを示す必要性も提起されました。そして社会は多様な資本で成り立っており、過疎高齢化が進めば自然資本を除いた5つの資本(経済資本・社会共通資本・文化資本・・人的資本・社会関係資本)は縮小するが 同時にすべての資本が同じスピードで縮小しているわけではなく、やり方を工夫すれば「文化資本」「人的資本」「社会関係資本」など増やせる資本もあることが大事なポイントだとしました。

 

前半のまとめとして「人口」についての捉え方について以下の論点で再考することを強調されました。①「⼈⼝」の増減を一つの指標としているが、地域の将来像を決める決定的な要因が本当に「人口」なのか、②少⼦化対策や移住定住政策などの減少回避が議論の中⼼でよいのか、もっといえば③⼈⼝減少を⼈⼝増加で解決しようとすると⽣じる倫理的な問題が、今の若年層で少子化が進む一番の原因としました。倫理的な問題とは例えば、「⼦どもを持たないカップル・⼥性の存在を否定するような空気感」「⼦どもをもつという複雑なことに対して、人口対策という⽀援をすれば出⽣数が増えるという単純な因果関係を仮定してしまう」、つまり「複雑なものを複雑なままに捉えることができない思考によって生まれる寛容性の低い社会」が、結果的に人が減っていく構造があると指摘されました。経済的な支援も大事だが、いろんな生き方を認める地域の方が人は増えているとのことです。最後に、人口規模が大事なのは変わりないけれど「ある地域をその地域にしているものは何か」がすごく重要で、言い換えれば「その地域の質」にしているのは何なのか、「それ(地域の質)を守っていくことがまちづくり、地域づくり」であるということが私のメッセージだとまとめられました。

本会場の東京第一ホテル鶴岡に参加された皆さん
本会場の東京第一ホテル鶴岡に参加された皆さん

 後半は具体例として秋田県五城目町の事例について紹介がありました。まず五城目町が制作した「True NorthAkita」というPR映像作品を視聴しました。子どもが何人で大人が何人でとかの量では測れない、動画でないと雰囲気が伝わらないものがあって、その動画の力がこの地域づくりの分野で大事にされているということです。五城目町は人口8000人弱で65歳以上が51%と典型的な過疎高齢化の自治体です。五城目町では「住んでいて面白いまち」「どういう産業を作っていくか」という「まちの攻め」の部分を大事にしています。それは、そこに住んでいる人達だけだと生まれてこないので、外から町と関わってくれる人達と一緒に動くことが起き始めているとのことです。地域活性化というと起業やビジネスにむきがちですが「こういうことがあったらいいね」「こういう場所があったら」という小さなアイデアを実現することを「企て」と呼んで、2013年からいろいろ具現化しています。子育てに関わる教育系、子育て中の親御さんをサポートするもの、6次産業化によるジャム加工やカフェ、など種類は様々ですが「これをやりたい」という思いにみんながのってきちんとプロジェクトにする流れが出来ています。

こうした五城目町の取り組みを通して「地域が持続可能になる、とはどういうことか」との考察が話されました。一つは「見方を変えてみる」、例えば今の人口ピラミッドは「高齢者一人当たりに対する生産人口が少ない社会」とされているが、これをひっくり返してみると「子どもひとりあたりに対する大人が多い社会」と五城目町では考えています。2つ目は「異質なものを流入させる」、外からの人が入り込みやすいものの存在です。地域の人は同じことを繰り返すことは得意ですが、新しいことを何か起こすのは外からの人がメンバーにいることが大事です。3つ目は「無くなっていくもの見つめながら豊かさを問い直す」こと、ある集落や村が閉じるときに社会として何を失ったか考えることが、地域として何を続けていくか守っていくかの答えになっているのではないかと、とのことです。4つ目が「自ら学ぶまち」ということで、いろいろ変化するなかでも「自分達が集まって学ぶ」姿勢は変わっていないのが五城目町の最大の特長です。この五城目町の取り組みを考察してみると、人口の増減だけで持続可能な地域づくりは語れないことが見えてきます。

工藤先生は最後のメッセージとして「地域はそこに住んでいる人たちだけでなく、いろんな人達が交流している流れの間としてあり、新しい流れを生み出したり、すでにある流れを強く太くするために、私たちは何ができるのか考えて欲しい」と投げかけ、講演を終えました。